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南島の小さな町が壁画で生まれ変わる日 – ジェラルディンの壁画アーティスト

りうか
りうか
こんにちは。久しぶりに自分の車で遠出の旅をして、大満足のりうかです。

今回の旅は新旧の友人を訪ねたり、懐かしい町を訪問したりと盛りだくさんだったのですが、中でもどうしても行きたい!と思っていた場所がありました。

それがジェラルディン(Geraldine)。車でクライストチャーチからテカポ方面に向かう間の小さな町で、大型バスなどがよく休憩に停まっています。

初めて行った時は、「ここのジャムが美味しくてスーパーで買えるようになったんだよ」と聞いて、スーパーで素朴な容器のジャムを見付けては喜んでいたのですが、今やそのジャム屋さんこと BARKER’S は誰もが知っている大きなメーカーになりました。

ただ、正直BARKER’S以外は印象に薄く、今まで私も休憩でしか立ち寄ったことしかありませんでした。それが今回、何故どうしても行きたいと思うに至ったか。

それはTwitterで見付けた壁画でした。
作者の江龍さんはオーストラリアで壁画を描き始めて、現在はワーキングホリデーでジェラルディンに滞在中。縁が重なって町のさまざまなところに壁画を描いています。

せっかく南下するなら是非実物を見たい!とコンタクトを取ったところ、快く作者自ら解説付きでツアーをしていただけました。
今回はボリュームたっぷりに、直に見て圧倒されたジェラルディンの壁画たちとその作者の江龍さんのご紹介をしたいと思います。

この記事の後、2021年5月までに増えた壁画のご紹介と全リストはこちらの記事からどうぞ!
小さな町の壁画アーティストがニュージーランドの壁画アーティストになる日2020年3月、ロックダウン直前にジェラルディンやってきた壁画アーティストの江龍さんは、今やジェラルディンだけでなく、ニュージーランド中に壁画を描くようになりました。この記事は江龍さんのニュージーランドの壁画の完全攻略記事です。随時更新していく予定ですよ。...

訪問のきっかけとなった壁画


それまでも彼の違う壁画は見ていて、いいなぁとは思っていたのですが、この壁画の色遣いと鳥の迫力に圧倒されて、いつか実物を生で見てみたい!と思うようになったのです。

初めての壁画

待ち合わせたモーテルにはこんな壁画がありました。
写実的でありつつ絵画的なその絵に引き込まれていると、江龍さんご本人が登場。Twitterではお話ししていましたが直接は初めまして。

この絵の話を聞くと、

江龍
江龍
この絵はジェラルディンに来て初めて描いたものなんです

と教えてくれました。

実はこれ、卓球台 に描かれたものなのです。

中学の時の同じスイミングクラブの友達が住んでいる(!)というニュージーランドあるあるの まさかの出会いと縁 を頼って、ロックダウン直前に滑り込むようにしてジェラルディンに来た江龍さん。

ロックダウンで何も出来るような状況でなかった時に知ったのが、世界規模で開催されることになった オンラインのミューラル(壁画)フェスティバル でした。covid-19の影響で世界中でイベントが次々に中止となり、主催者たちがこうなったらオンラインでやってしまえ!と、アースデイに合わせて開催することにしたイベントです。

 

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誰でも参加可能ということで、江龍さんは作品を描く壁を探したものの適当なものがなく、 相談したところ、これならいいよと提供されたのがこの卓球台。

そして、この作品を見た人が「自分の家の敷地に壁画を描いてくれないか?」と声をかけた時から、江龍さんのジェラルディンでの壁画アーティストとしての歩みが始まったのです。

江龍
江龍
オンラインフェスティバルがなかったらこの絵も生まれなかったかも知れません。

そして、この絵が生まれなければ、ジェラルディンの壁画たちは生まれなかったかもしれません。縁とタイミングというのは不思議に繋がってるものですね。

さっそく町のあちこちに散らばる壁画を見て回ることになりました。
(歩いて回れる小さな町で良かったです)

始めのユニコーン

江龍さんが始めに案内してくれたのは、個人のお宅のトタン塀とお隣のガレージのブロック、という二種類の違った素材をキャンバスにして描かれたユニコーンの絵でした。

依頼主の大好きなユニコーンをモチーフにして欲しいとお願いされ、庭にある植物などのイメージも取り入れながら描きあげたそうです。

ちょうどこのお家まで歩きながら、壁画を描く素材によって描き方や難しさは違うのかと尋ねていたところでした。イメージでは何となく違うのかな、くらいでしたが、実物を見ると一目瞭然。
この質感の違いを絵として上手く合わせるのに苦労したそうです。

始めは上半分、ブロック塀の部分にだけ描いてほしいと依頼されたものの、トタンにも描けるので全体に描かないかと提案してOKをもらったとのこと。

また、描いていたころはまだcovid-19の警戒レベルが3で十分なスプレーが手に入らず、白の表現に他の色を足して工夫したりもしたとのことでした。

またこんな大きくて繊細な壁画を描くのにどんなスプレーを使っているのか聞いてみたところ、今は壁画用のスプレーが出ていて、いわゆるDIY用とは一線を画しているとのこと。
スプレーのノズルや色もさまざまに用意されていて、用途によっていろいろと変えているとのことでした。また、必要な場合には筆も使っているそうです。

The Running Duck(カフェ)

本当は江龍さんご本人の登場はもう少し後にしたかったのですが、壁画の大きさを見ていただくのにちょうどいいので、こちらで江龍さんに入っていただいた写真をご紹介します。

カフェの屋根部分全体に書いたこの壁画は、大きさもさることながら構図と色使いがとても目を引きますよね。

ここは高いところの作業だったので足場を組んで描いたそうです。

建物の裏の壁はまだ何も描いてないので、

江龍
江龍
機会があったらここにも描いてみたいけど、階段があって表より逆に大変そうなんですよね…

と話してくれました。
こんな大きいと時間もすごく掛かるんじゃないですか?と尋ねると、何と

江龍
江龍
だいたい2-3日ですかね

との答えが!

大きさや構図、一日の作業時間などによっても当然変わるそうですが、普通の壁画なら数日で描きあげてしまうそうです。

Mundell’s Cafe

お腹も空いてきたので、ランチがてらと向かったのは私が心を撃ち抜かれた、あの壁画があるMundell’s Cafe。Kiwi Countryというインフォメーションセンターやお土産屋さんが入っている複合施設の中にあります。

大型の観光バスなどはここに停まるらしく、かつて別の場所にあったギネス掲載の世界一大きいセーターもここに移されており、トイレも団体対応で綺麗かつ、すごい数でした。

写真の右手、街道沿いにMundell’s Cafeの入口と壁画があります。

実際、待ち合わせ場所に向かう時にもここを通ったのですが、元々の赤色に加えて鳥のインパクトが強く、すぐに見付けることが出来ました。

そしてとうとう実物とご対面。

Twitterの写真で見ていたよりも、本物は段違いに素敵でした。
何より、ガラス壁の内側に行かないとなかなか気づかない子がいたのです。

分かりますか?
(光の加減でちょっと分かりづらいですが)
足元にキウイがいるんです。

Twitterでも見ていたはずなのに、上のトゥイの印象が強くて何となくしか見ていませんでした。
真っ黒でつぶらな瞳が可愛いです。

この壁画の依頼は、ここで働いている日本人の方からだったそうです。
もともとの赤の色は残しつつ、団体などでいらっしゃる日本人旅行者の方に写真を撮ってもらえるような場所を作りたかったとのこと。

江龍
江龍
その為にもニュージーランドらしいキウイを入れたんです

と言われて納得。

特にガラスを越えないと綺麗に見られない…というのが、来てみたさをそそるポイントかも知れません。

The Hair Boutique(美容室)

ランチが終わって次に向かったのは美容室でした。
今までの壁画と違い、ここは店の内部に描かれているので、中に入った人しか見ることが出来ません。


このモチーフについて聞いたところ、クライストチャーチにいた頃に描いた会社の休憩室の絵を気に入ってもらって、それに似たテイストで…とのことでした。

ちなみに、そのクライストチャーチの会社の壁画とはこちら。

すべて筆で描いたという緻密な絵をじっくり堪能できるのはお客さまだけ…というのは、ここに来る人にとって嬉しいアドバンテージかもしれません。

ガレージドアがホビットンに

次は個人宅のガレージへ。今までとはちょっと違った雰囲気の作品でした。
覗きこむ江龍さんがガンダルフぽいと思うのは私だけ…ではないと思います。

モチーフについて聞くと、

江龍
江龍
みんなニュージーランドといえばで鳥を描いて欲しがるんです。特にキウイやトゥイは多い
だから、違うものが描ける機会は出来るだけ多く作りたいし、こちらからも積極的に提案して独自性を出したいんです

と話してくれました。

確かに、特に商業施設でニュージーランドらしさを出したいとなったら、メジャーな鳥に行きたい気持ちも分からないでもありません。そしてそればかりを描いていても作者は楽しくないでしょうし、町に同じような絵が溢れてしまっても個性が消えてしまいます。

一作品だけでなく、いくつもの壁画を描いて 町全体をキャンバスにしているアーティスト だからこその視点なのだろうなと思いました。

Q Foods(カフェ)

最後は特に異色の作品を見に行きました。
若者にも人気でハンバーガーがとても美味しいと評判のカフェです。

(壁画に黄色いベストのおじさんは含まれていません)

店のリニューアル時に サイバーパンクな路地裏 をイメージして描いてほしいと依頼があったそうです。

日本ぽいガジェットを散りばめるためにいろいろと調べたり仕込んだりしたため、この壁画については3週間くらいの作業時間をかけたと聞きました。

確かにこの細かさであれば納得です。

このクオリティには店の方たちも大満足だったようで、ここで永久にご飯を食べ放題の権利をもらったとのことでした。
こういうお礼や繋がりもニュージーランドならではですよね。

江龍さんと壁画

ニュージーランドに来るまで

ツアーで町を回る間、いろいろな話を聞かせてもらいました。

大学では何と生物工学など完全理系の人だったと聞いてビックリ。
新卒就職時に事務員になったものの、すぐに これは違う と気が付いて辞め、デザイナーとして新しく会社に入り直したのだそうです。
デザイナーとしてのキャリアも長く、そちらの思考が壁画を描くときにも役立っているので、メインではなくても並行してその仕事も続けていきたいと話してくれました。

アジアなどの旅を経て、ワーキングホリデーで滞在したオーストラリアでファームの仕事を始めたものの、やはりまたすぐに これは違う と気付き、拠点をメルボルンに変えて前から興味があった壁画を始めたそうです。

メルボルンの壁画は毎日のように上から新しいものが描かれてしまうので、自分の作品は長く残らないことが多いけれど、その分、自由に挑戦出来たとのこと。
独学に近い形で始めたところから仕事を得て、きちんと学びたいと意欲が出始め、知り合いで人間的にも技術的にも尊敬できる人に師事して自らをブラッシュアップしていったそうです。

これから

私が話を聞きに行った7月末の段階で、すでに5-6件の依頼があるとのこと。
打診はもっとあるそうなのですが、途中で立ち消えたりするものも多いらしく、確実なものを数えてそのくらいと教えてくれました。

そのうちのひとつは何とティマルカウンシルからの依頼。

11月に ジェラルディンフェスティバル という大きなお祭りがあり、それにあわせて大きな壁画を描くそうです。

それがこちらのプールの壁。
現在の絵は地元のアーティストが描いたものだとのことですが、もう30年ほど前になるとのことで、新しくしたいと依頼がきたそうです。

お話しした時はまだ予定の段階でしたが、その後本決まりに!

子どもたちのアイデアも取り入れるなんて、すごく素敵だと思います。
また11月にはジェラルディンに行きたくなりました。

ワーキングホリデーでの滞在な為、今のところは今年の年末か来年の1月には出国予定。
評判を聞きつけた他都市からも引き合いがあるそうで、移動することも検討中とのことでした。

でも、ジェラルディンの人たちが離したがらないんじゃないかなぁ…とも、思います。

Latitude

その証拠のひとつともいえるのがこちらの雑誌。
広くカンタベリー地方の人たちに愛されているローカルマガジンだそうですが、装丁もしっかりしていて人気の雑誌のようです。

そこにまるまる1ページを使って江龍さんの紹介記事が掲載されました。

記事は こちら から読んでいただけますが、もうベタ褒めです。

町でも壁画の話をするとすぐに分かってもらえるとのことですし、すっかり有名人です。

カウンシルからの依頼で描く壁画も、後日分かったところによると、ジェラルディンと言えばのBARKER’Sのコマーシャルダイレクターの方も出資してくださっているとのこと。
ジェラルディンが町を上げて江龍さんをバックアップしようとしているのが分かります。

そんな江龍さんの作品は、Instagramで見ていただくことが出来ます。
※現在Instagramプロフィールの埋め込みが上手くできないので、リンクでお許しください…。

ジェラルディンが壁画の町になる日

町を巡っていた時に、江龍さんとはテイストの違う絵がたくさん描いてある前を通りました。ニュージーランドっぽい、ちょっとユーモラスなタッチの絵たち。

江龍
江龍
ずっとここで絵を描いているベテランのおじさんで、よく話をするんです
描き方も取り入れさせてもらったりしました

と聞いて興味があったのですが、帰り道に偶然描いているところを見ることが出来ました。
この方も長くここで絵を描かれているそうです。

11月のジェラルディンフェスティバルまでには、江龍さんの壁画は今の倍くらいになっていますし、他にもライブペインティングなどやってみたいことはまだまだあるそうです。

私も半日一緒に歩いているだけで、何も描いていない壁を見ると「あ、ここに空きが!」と思うくらいには壁を気にするようになりました。
何より強く感じたのは、町の人たちが壁画を自分たちの誇るべきものとして、愛を込めて話してくれていることです。

もしかしたら近い将来、ジェラルディンは壁画の町としてニュージーランド中に名を轟かせるかもしれませんね。

南島に来られる方は、ちょっとだけ足を延ばしてジェラルディンに来るのもよいかもです。壁画の町の始まり を目撃できるかもしれませんよ。

ご自身で壁画を見たい方はこちらの地図をご参照ください。
(個人宅の場所は含めていません)

もっと見たい方へ

クライストチャーチの壁画は会社内なので一般では見られませんが、北島のパーマストンノースには、江龍さんがニュージーランドで初めて描いた壁画があるそうです。

コンプリートを目指したい方は、こちらも是非。

感想・リクエストお待ちしています

今回の感想や、こんな人がいる!むしろ私を取材してほしい!など、是非Jandals Lifeまでお寄せください。
Twitterで #Jandalslife のタグを付けて発信してくださるのも嬉しいです。

これからもニュージーランドを巡って、いろんなところで活躍している日本人を紹介していけたらいいなと思っています。

ABOUT ME
りうか
南島、ネルソンの隣のタスマン地方に住んでいます。2002年にニュージーランドに出会い紆余曲折の末、2017年に移住。永住権保持。元留学エージェント。ニュージーランド公認の運転教習と旅客輸送の資格を保持し、車旅サービスのmākohaというサービスを始めました。 料理が好きで、好きなものを好きな時に食べるためにいろいろ自分で仕込めるようになってきました。