旅する

ニュージーランドの山奥で遭難しかけた話

新年早々、物騒なタイトルの記事で失礼します。現在ニュージーランドを車で一周中のはっしー(@hassy_nz)です。

遭難。頻繁に山に登る、あるいは極地探検に出かける人でなければ身近に感じることのないワードでしょう。もちろん僕も、自分には一生縁のない言葉だと思っていました。

しかしながら昨年の暮れ、僕はまさに山での遭難寸前となる経験をしたのです。しかも「まさかこんな所で」という場所で。

自分への戒めと皆さんへの注意喚起の意味をこめて、記事にしてお届けしたいと思います。

\\ 動画もあるよ! //

そもそもどこへ行ってきたのか

2020年の年末、12月25日から29日にかけて、「ミルフォード・トラック」というトレッキングコースを歩いてきました。

ニュージーランド南島の南西部に広がる、フィヨルドランド国立公園のど真ん中。ブナやシダ植物の生い茂る原生林を通り抜け、標高1000m以上にもなる峠を越えて、最後はフィヨルドの入り江に到達する、全長約54kmの道のりです。

シシガミ様が出てきそうな緑の森。
標高1154mの「マッキノン峠」からのぞむ景色。森林限界が低いので視界を遮るものがなく、大パノラマが広がる。
最終日には、数々の映画ロケにも使われた景勝地「ミルフォードサウンド」を船の上から鑑賞。

ほぼ手つかずの大自然を堪能できるこのコースは「世界一美しい散歩道」と呼ばれ、トレッキング愛好家が世界中から訪れる場所なのです。

しかも今回参加したのは、山岳ガイドが同行し、ホテル並みの食事と宿泊施設が提供される豪華ツアー。

毎日8時間ほど歩いたあとには、温かい紅茶やコーヒーで体を暖め、コース料理に舌鼓。

鹿肉の赤ワイン煮込み。山小屋でこの料理が出てくる奇跡ですよ。

熱いシャワーを浴びてから暖房のきいた部屋でぬくぬくと眠り、バイキング形式の朝食でしっかり栄養補給して山歩きに出かける。

シャンプー、リンス、ボディソープも備え付けです。

泊りがけの山歩きがなんたるかを知る人なら「ふざけんな」と思わず石を投げつけたくなる豪華さでしょう。大変たいへん快適なツアーでございました。

事実、ほとんど山を歩いたことのない超初心者の人でさえも、普通に参加するような内容なのです。

ところが、僕はこんないたれりつくせりのツアーで遭難しかけたのであります。

事件は山小屋の手前で起きた

それは、5日間の行程のうち2日目のことでした。

1日目はほんの1kmほど歩いただけで山小屋に到着したので、今日からいよいよ本格的に山歩きが始まるというところ。

森の中を進んでいく道のりは16kmほどありますが、全体的には平坦で歩きやすいコースが続きます。

ガイドは参加者が道を外れていないかなどを確認するだけで、常に一緒に歩くわけではありません。あくまでマイペースで歩けるのがうれしい。

道中では希少な植物の生い茂る湿地帯や、愛くるしい鳥たちを眺めたりして、「いや〜、さすが世界一美しい散歩道は伊達じゃないな」とご満悦で楽しんでいたのですね。

ところが、あともう数百メートルで山小屋にたどり着くという場所で事件は起きました。

この直後に遭難しかけます。

勝手な解釈で道を間違える

その場所は、よく整備された道が突然途切れ、水の涸れた川を渡らなければならないポイントでした。

「えっ、こんな岩だらけのところを歩くの!?」と一瞬面食らいましたが、先を見るとオレンジ色のポールが何本か立っています。

これはニュージーランド自然保護局(DOC)によって管理されている、道を示す目印。何度か日帰りでのハイキングを経験してきた自分にも見覚えのあるものです。

しばらく歩くと、ガイドさんがひとり岩場の真ん中に立って参加者を誘導していました。

「山小屋はすぐそこですよ! もう少し登ったら右手に見える橋を渡って、案内板にしたがってください」

おお、なるほど。慣れない長時間の山行をしてきたので、あと少しで休めるとはありがたい。

しかしどこまで登ればいいのやら……とポールの先に目をやると、オレンジ色に染まった岩が点々と転がって、道らしき形を作っているではないですか。

ポール付近を拡大して、色を強調した写真。黒い線の内側、上流部までオレンジ色の岩が見える。

あ、なるほど! 自然保護局の人が岩をオレンジに染めてくれているのか! 目印のポールもオレンジ色だもんな〜

もうおわかりでしょう。この勘違いが地獄への入り口でした。僕は迷いなくオレンジ色の岩に従って川をさかのぼっていきます。

自分の勝手な解釈で道を判断すると遭難する

傾斜がどんどん急になり、沢登り状態に

オレンジ色の岩を追いながら、ずいずいと上流に向かって進んでいく僕。

最初はちょっと足場の悪い道くらいだったのが、次第に傾斜が増し、ついには体全体を使った沢登りの様相を呈してきます(※道じゃないから当たり前だ)。

目印にしていた”オレンジの岩”もだんだんと数が減って見えにくくなり、進む方向がわかりづらくなってきました(※だって道じゃないから)。

しかし、このときの自分はまだ道に迷っていることに気が付いていません。それどころか、

こんなに大変な場所があるならガイドさんも前もって言ってくれればいいのに

と大変失礼な不満を覚えながら、さらに遭難への道を突き進んでいくのであります。

事前の説明にないコースを行くと遭難する

そして、全てが間違っていたことに気づく

20分ほど沢登りを続けたあたりでしょうか。さすがに自分も様子がおかしいことに気づき始めました。

まず、行く先にまったく人の気配がない。ツアーには中高年の方も多く参加していました。これだけ激しい岩登りが続けば途中で休んでいる人がいてもいいのに、誰の姿も見ないなんてことがあるのだろうか。

そして、足元がどう見ても危険になってきている。岩と岩の間に隙間が目立つようになり、覗き込むと下まで2mはゆうにあり、もし足を踏み外して落ちたら怪我では済みそうにない。

岩同士が密着し、かろうじてバランスを保っている。あらためて見るとだいぶ恐ろしい場所にいた。

本当にこんな危ない場所を「世界一美しい散歩道」が行かせるのか? 散歩道だぞ?

いやいや、それでも「オレンジの岩」はまだあるし……と、よくよく目を凝らしたそのとき、背筋がいっぺんに凍りました。

(これ、ただの藻じゃん……)

こんなの目印でもなんでもねぇ! 振り返れば、自分が今まで必死で登ってきた険しい岩場が下まで続いています。

ここをまた下っていくのは苦行以外の何物でもない、しかし戻る以外に仕方ない。意を決して、段差の小さな場所を選んで慎重に足を進めました。

(下りはガチで足元が危なかったので、撮影を続ける余裕がありませんでした)

自分の判断を考え直さない限り戻ってこられない

命からがら山小屋にたどり着いた

15分ほど岩場を下ると、岸辺に「オレンジ色のポール」が姿を見せました。なんとか正規ルートに復帰できた! 助かった!!

そのまま進むと案内板があり、それに従うと山小屋まではほんの1分ほどでした。

(道に迷ってたことバレてなきゃいいな……)

と思ったものの、山小屋の入り口にはしっかりガイドさんが待っており、トランシーバーで

「He’s come back.」

と通信していたのが聞こえ、僕は思わず天を仰いだのでした。心配かけてすみません。

入り口にいるオレンジの服を着た男性がガイドさんです。

気がつけば服は汗でぐしょ濡れ、足は疲労でがくがく。ひとりだけ沢登りしてきたんだからそりゃそうだわな。

シャワーを浴びて夕食を取ったあとは、食後の一杯を楽しむ余裕もなく、ベッドに倒れこみ泥のように眠ったのでした。

幸いこれ以降は大きなアクシデントもなく、無事にルートを歩ききって帰ってくることができました。

道に見えず、目印もない場所は道ではない!

ニュージーランド自然保護局が管理するトレッキングコースの場合、道は「誰がどう見ても道」になっているか、もしくはオレンジ色の目印が立っています。

オレンジ色のポール、またはこうした三角形の板がトレッキングコースの目印。

道にも見えないし、目印もない場所を進んでいる場合は、道に迷っている可能性が高いです。そんなときは一刻も早く引き返しましょう。

きちんとルートを守って、楽しい山歩きライフを!

それにしても、道に迷いながら見上げた夏空は美しかった。
ABOUT ME
はっしー
日本のIT企業で月100時間超えの残業を経験、過労死しかけた元社畜の34歳。理想のワークライフバランスを求めてニュージーランドの大学へ留学、プログラマとして現地就職。毎日定時帰宅の生活をエンジョイした後、永住権を取得。現在は無職です。