ニュージーランドの庶民の味の代表格といえば「フィッシュアンドチップス」をあげて異論のある人はほぼいないだろう。
海苔弁の上に乗っているような白身魚のフライに、大量のフライドポテト。5ドルも出せばお腹いっぱい食べられるのもうれしい。
しかしこの国民的料理に対し、僕は長年抱いていた疑問があった。
フィッシュアンドチップスって、味の違いなくない?
魚と芋を揚げてるだけだし、味付けはどこで食べても塩オンリー。店ごとに秘伝のタレがあるわけでもない。でもグルメレビューサイトを見れば、そこには明確に「フィッシュアンドチップスの名店」なるものが存在する。
ニュージーランドに住んでいながらフィッシュアンドチップスの味の違いがわからないとは、大阪に住んでいながらたこ焼きの味の違いを知らないようなものだろう。このまま死ぬのはもったいない。
そして僕は、毎日フィッシュアンドチップスを食べ比べる生活へと身を投じた。
(注:今回の記事では、テイクアウェイショップと呼ばれる持ち帰り専門店に限って調査をしています。レストランで出される高級なフィッシュアンドチップスとはかなり違います)
1軒目: あえてイマイチの店から食べてみる
月曜日、まずは家から一番近いお店のフィッシュアンドチップスを買ってみた。
具体的な店名を出すのは避けるが、実はここ、同居人のニュージーランド人が「イマイチ」と言っていた店なのである。
まずはそこそこのフィッシュアンドチップスを食べたあとに旨い店に行けば、違いがよりはっきりわかるだろうという狙いだ。
(大きさの比較のため、たまたま財布に入りっぱなしになっていたPontaカードを一緒に写しています。)
さてこのお店のフィッシュアンドチップス、正直な感想を言うとふつうに美味しかった。
魚の衣はやや厚めながら決してモサモサしておらず、むしろクリームブリュレの表面のようなガリガリッというしっかりした食感。魚の身そのものもフワフワで、嫌な風味はなし。
ポテトは細長いシューストリングカット。とりたてて特徴はないものの、カラッと揚げられていて特に不満のない味だ。
う〜ん、これは僕の舌がバカなだけなのか、旨いと言われるお店のレベルが異次元なのか? 翌日以降を楽しみにしながらこの日は床についた。
- 「イマイチ」な店でもそれなりにおいしい
- 衣は厚めでガリガリした歯ごたえ
- ポテトは細切り
2軒目: 近所で一番のお店を試したらさっそく違いが
さてここからは、Googleマップで高評価(4.5点/5点以上)を獲得しているお店に絞って食べ比べをして行く。
まずは同居人から「近所で一番うまいのはここ」と教えてもらった Lincoln Road Fish and Chips(場所)。
昼の3時という中途半端な時間に訪れたものの、ひっきりなしにお客さんが訪れており、人気店であることは間違いないようだ。
店内に張り出されたメニューには、フィッシュアンドチップスのほかにハンバーガーやチキンナゲットなどおなじみのメニューがずらり。薄汚れた壁の雰囲気など、日本の下町にある大衆食堂を思わせる雰囲気である。
ということで買ってきた。
ポテトに隠れてわかりにくいが、一軒目に比べると魚が明らかに大きい。また薄い衣は黄金色に揚げられていて、食感は外サクサクの中ふわふわ。銀だこなどの揚げたこ焼きと、道頓堀くくるなどの正統派大阪風たこ焼きの違いを想像していただけると差がわかりやすいかと思う。
フライドポテトは太めのストレートカットで、芋のほくほく感をより強く味わうことができる。マクドナルドのポテトのようなひょろんとしたものより、太めのほうが高評価につながるのかもしれない。
ただし、肝心の魚そのものの味の違いはよくわからず。どちらもシンプルな白身魚なので、そもそもの味が薄くて比較しにくいのだ。魚の味にはこの先大きな違いが現れるだろうか?
- おいしい店の魚は衣が薄くサクサク、あと大きい
- ポテトは太めのほうが好まれるのかも?
- 魚そのものの味の違いはよくわからない
3軒目: 学生御用達の店は究極のさっぱり味
3軒目に訪れたのは、地元の名門・カンタベリー大学のすぐそばにあるCaptain Ben’sというお店(場所)。
Googleマップでは高評価の嵐で、「何を頼んでもうまい」「近所に来たなら絶対寄るべき」などのレビューが多数投稿されている。この日も学生と思われるお客さんが次々に入ってきていた。
Captain Ben’sのフィッシュアンドチップスがこちら。ぱっと見た感じでは、大きさも色も2軒目のお店とよく似ている。
しかし、フィッシュを一口食べて驚いた。味がめちゃくちゃさっぱりしている! 味がしないとか薄いとか悪い意味ではなくて、新鮮なレタスを食べたときのように、サクサクの食感だけを残してするっと喉にすべりこんでいく。香りや味が一切主張してこない。
ポテトも独特で、外側はカリカリ、中には空気がたっぷり含まれててカシュカシュッととろけて溶けていく感じ。
どうやら、フィッシュアンドチップスは味よりも食感が大切な食べ物ではないのか?という仮説がここで生まれた。
- フィッシュアンドチップスは味より食感が大事?
- 魚そのものの味は薄くてもいい
ちなみに、3日連続でフィッシュアンドチップスを食べ続けたところ猛烈に甘酸っぱいものが欲しくなって、ジュースの消費量がものすごく増えた。ビタミン欠乏で体がSOSを発していたのかもしれない。
4軒目: シーフードを冠した店の極太ポテト
続いてはその名もA1 Seafoods(場所)。一軒くらいはシーフードを看板にしているところに行きたいと思ってここに決めた。
フィッシュアンドチップスを買ってみると、一見してポテトがぶっとい!!
魚のフライはこれまでの中でもっとも塩気が強く、一口食べたときのインパクトは一番。衣はやや厚めのミシッとした食感ではあるものの、これはこれでアリ。必ずしもサクサク食感だけが正義というわけではないようだ。
食べ比べの結果を総合してみると、魚やポテトの味そのものには大きな違いはなく、どのお店も食感で差別化しているのかなと感じた。特に3軒目のCaptain Ben’sは、いい意味で味や香りの主張がなく、食感をダイレクトに食べさせようとしているのが印象的だった。
魚のフライの食感にはバリエーションがあったものの、おいしいとされる店のポテトはすべて太め。食べごたえはもちろんのこと、太いほうが揚げるのに技術が必要とされるのとも関係があるのかもしれない。
……と、4軒食べ歩いたところで僕の体に大きな変化が。ポテトが一切食べられなくなってしまったのだ。決して満腹ではないのだけど、ポテトは見るだけで「もういいや」って気になっちゃう。
さすがに毎日フィッシュアンドチップスは無理があったか。美味しく食べられなくなっては意味がないので、食べ比べはここでストップする判断を下した。
それでも、店ごとの味の違いはだいぶわかったし、おいしい・まずいの基準もわかるようになった……と思う。これまでに得られた知見をまとめるとこんな感じになる。
- フィッシュアンドチップスは食感こそが大切
- 魚やポテトそのものの味はあまり関係ない
- 魚の衣は薄くても厚くてもいい
- ポテトは細めより太めのほうがいい
ニュージーランド人に聞いてみよう!
フィッシュアンドチップスの味の違いを日本人が独自に学んでみたわけだが、これは本当に正しいのか? ここはニュージーランド人に直接聞いてみるのがいいだろう。
ということで、生まれも育ちもニュージーランドである友人のマイクに質問をぶつけてみた。
あとは買ったらすぐ食べなきゃだめだよ。湿気ったフィッシュアンドチップスほど最悪なものはないから! こんな感じの答えで大丈夫かな?
予想がどんぴしゃりすぎて自分が怖い。念のため「味や食感」について教えてほしいと質問したのに、答えは見事に食感に偏っている。ポテトは厚切りというところまで大正解だし、湿気る前に食べなきゃダメというのも食感重視とつながる。
魚の衣については細かく言及されていないが、ある程度のバリエーションを許容しているからとも言えるだろう。
毎日フィッシュアンドチップスを食べ続けて、ニュージーランド人の感覚を理解することができたようだ! うれしい!!
フィッシュアンドチップスは、たこ焼きではなくむしろ刺し身
「フィッシュアンドチップスの味の違いがわからないなんて、大阪に住んでいながらたこ焼きの違いがわからないようなもの」という思いからこの食べ比べ企画はスタートした。
しかしやってみてわかったのは、フィッシュアンドチップスはたこ焼よりも刺し身に近いということだ。
考えてみてほしい。美味しい刺し身とはどんな刺し身だろうか? きっと魚が新鮮だとか、身がぷりぷりしていて水っぽくないとか、食感についての表現が多く出てくるだろう。刺し身の味そのものについて語るのは難しいはずだ。
フィッシュアンドチップスもそれに似ていて、白身魚とじゃがいもを揚げて塩をまぶすだけというシンプルな料理だからこそ、いかに上質な食感を提供するかが大切になってくるのだと思う。
集中的にフィッシュアンドチップスを食べまくったこの4日間、実に充実した時間だった。でも35歳の体に揚げ物は地味にこたえるので、もうしばらくは食べなくていいかな〜。げっぷ。