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ニュージーランドで大麻が合法化される!? 国民投票のポイントと大麻事情を徹底解説

2020年の10月、ニュージーランドの歴史を大きく変えるかもしれない国民投票が開催されます。

焦点となっているのは「大麻の合法化」です。(※「積極的安楽死の合法化」に関する国民投票も同時に行われます)

芸能人が大麻所持で逮捕されると大々的に報じられる日本から見ると、大麻を合法化するなんて信じられない!と思われるかもしれません。

しかし今のニュージーランド社会で大麻がどんな位置づけになっているのかを知れば、その狙いが見えてきます。

この記事では、国民投票におけるポイントと、ニュージーランドの大麻事情についてわかりやすく解説していきます!

本記事の内容は大麻の使用を推奨するものではありません。2020年9月現在、許可を得ない大麻の所持は日本でもニュージーランドでも違法であり、法律により処罰されます。

そもそも大麻ってなんなの?

合法化するしないの話の前に、大麻そのものについて簡単に解説しておきましょう。

「大麻」とは、植物のアサの花や葉っぱを加工して作られる薬物のことです。

日本では「マリファナ」と呼ばれることが多いですが、英語ではcannabis(カナビス)や weed(ウィード)、ganja(ガンジャ)などと呼ばれています。

鎮静剤などの医療用として使われることもあるものの、麻薬や覚醒剤のようなドラッグ(嗜好品)として取引されることもあり、世界中の多くの国や地域で違法となっています。

2020年9月現在、ニュージーランドでは医療用の大麻のみが合法です。

国民投票における論点

今回の国民投票では「あなたは嗜好品としての大麻合法化法案を支持しますか?」という質問に対して、「支持する」または「支持しない」で回答することになります。

法案の中身はこんな感じです。

20歳以上の人は次のことが可能になります:

  • 1日最大14グラムまでの乾燥大麻(またはそれに値するもの)を、許可を受けた店舗で購入する
  • 大麻を販売したり使用したりする許可を受けた場所へ入場する
  • 私有地、または許可を受けた場所で大麻を使用する
  • ひとり最大2株まで、一世帯当たり最大4株までの大麻を栽培する
  • 最大14グラムまでの乾燥大麻(またはそれに値するもの)を、20歳以上の誰かに分け与える

法律なので言葉が回りくどくて読みにくいですが、ざっくり言うと、決まった範囲内で大麻を買ったり、吸ったり、栽培したりするのが合法化されるということですね。

タバコやお酒を買う感覚で大麻が買えるようになるので、実現したら社会が大きく変わることになりそうです。

ちなみに、この国民投票で「支持する」が過半数を超えたとしても、すぐに大麻が合法化されるわけではありません。

国民投票はあくまで「合法化にむけた審議を始めるかどうか」のためのものです。「支持する」が過半数を超えた場合、法案を元にして実際に法律を作るかどうか話し合いがされるというわけなんですね。

ということで、法案通りにならなかったり、そもそも法律ができなかったりする可能性もあります。

なお「支持しない」が過半数を超えた場合は、大麻合法化の審議はされず、違法のままとなります。

大麻合法化法案に関する詳細はニュージーランド政府公式サイトで参照できます。

大麻を合法化する理由とは

それにしても、なぜ違法薬物である大麻を合法化する意味があるんでしょうか?

政府公式サイトを読むとその意図がわかります。重要なところをかいつまむと、以下のような内容です。

  • 品質・効果ともに見合う大麻へのアクセスを可能にする
  • 非合法な大麻の供給を排除する
  • 大麻使用に伴う健康リスクへの関心を高める
  • 若年者の大麻へのアクセスを制限する

ひとつめの「品質・効果ともに見合う大麻へのアクセス」とは、近年ニュージーランドで合成大麻による死亡事案が発生していることと関連しています。

合成大麻とは、単一または複数の植物成分を混ぜ合わせたもので、通常の大麻より人体への害が大きいとされており、国も公式に警告を出しています(保健省のサイト)。2019年9月の報道によれば、ここ2年で少なくとも70人が合成大麻の使用で命を落としたそうです。

国自らが大麻の質をコントロールすることで、命に関わる危険な大麻が出回るのを防止する狙いがあるんですね。

また、ふたつめ以降のポイントは、ニュージーランドではすでに非合法な大麻取引がかなり広まっていることを示しています。

少し古いデータですが、2003年の統計によると、ニュージーランド人のおよそ7人に1人が過去1年以内に大麻を吸ったことがあると回答しています(出典: National Drag Policy 2007-2012)。

このまま違法な状況を放置しておけば、大麻がギャングの資金源になったり、中高生がドラッグに手を出してしまったりと、さらに深刻な社会問題に繋がりかねません。また、社会全体でどれだけ大麻が広まっているのか把握するのも難しくなります。

ならばいっそ制限付きで合法化してしまい、無許可での販売や未成年の使用を取り締まれるようにし、社会の中で大麻の存在が見えるようにしようというのが今回の法案のキモなのです。

2012〜2013年の統計では、「人生で一度も大麻を使ったことがない」と答えた人が全体の58%に達しています。ニュージーランド国民の多くが大麻を吸っているというわけでは決してありません。

大麻合法化により懸念される社会問題とは?

「うーん、そうは言っても大麻を合法化しちゃって本当に大丈夫なの?」

……と思う方、多いと思います。社会がどんな風に変わってしまうのか、心配なところもありますよね。

『ブリタニカ百科事典』などで知られる出版社・ブリタニカが運営しているサイト「ProCon.org」の大麻合法化に関するページから、反対意見をいくつか抜粋してみましょう。

納税者の負担が増えるおそれがある

お酒を例にとって考えてみます。毎年、アルコール依存症になったり、急性アルコール中毒で担ぎ込まれたりする人々のために、国民の税金から医療費がまかなわれていますね。また、お酒がからんだ事故や犯罪の処理にも税金が使われています。

それと同様に大麻が合法化されると、大麻関連の健康被害や事故・犯罪のために税金が必要になり、結果として国民の税負担が増える可能性があります。

大麻の吸いすぎで中毒になった人が、今は大麻が非合法なので病院に行くのを我慢していたところ、どっと病院に押し寄せるようになる事態を考えてみるとわかりやすいでしょう。

10代の大麻使用が増えるおそれがある

大麻合法化の狙いのひとつに「若年者の大麻へのアクセスを制限する」がありました。ところが実際のデータを見ると、全く逆に働くおそれがあります。

アメリカのアラスカ州では、2014年に嗜好用の大麻が合法化されました。それならアラスカ州での10代の大麻使用率は低くないとおかしいですが、数値を見ると2015年から2016年にかけての統計で18.86%と、全米平均の12.29%に比べて6ポイント以上も高くなっています。(出典: National Survey on Drug Use and Health: Comparison of 2013-2014 and 2014-2015 Population Percentages

合法化することによって、かえってティーンエージャーが大麻に手を出しやすくなってしまうかもしれません。

大麻による交通事故死が増えるおそれがある

飲酒運転が危険なのと同様に、大麻を吸引した状態での運転も非常に危険です。

すでに大麻が合法化されているアメリカ・コロラド州で2017年に行われた研究によれば、交通事故死したドライバーのうち、基準値を超えるアルコールが検出されたのが37%だったのに対し、大麻が検出されたのは43%でした。

また、大麻を吸引した人の57%が、吸引後2時間以内に運転したことがあると回答しています(通常、大麻の薬効は2時間〜4時間程度続くそうです)。(出典:The Legalization of Marijuana in Colorado: The Impact

「飲んだら乗るな」ならぬ「吸ったら乗るな」が徹底されなければ、大麻による交通事故が避けられません。

大麻が合法的に買えるようになった社会がどんな様相を見せるのか、慎重に考えた上で一票を投じたいところですね。

国民投票は10月17日までです

ニュージーランドでは、ニュージーランド国籍を持つ人だけでなく、永住権を持つ外国人にも投票権があります。この記事を読んでいる方の中にも、投票権のある方が大勢いるかと思います。ぜひ皆さんそれぞれの意見を表明しに、投票所に足を運んでください。

「賛成と反対、どっちに入れたらいいかよくわからない!」という方は、本文中でも紹介したProCon.orgのページを読むと、すでに大麻合法化された国や地域の実例から賛成・反対意見がまとめられておりわかりやすいですよ。

また、NZ Heraldの行ったディベートの動画がYouTubeにも上がっており、こちらを見るとよりニュージーランドの実情に沿った議論が交わされていて参考になります。

投票受付はすでに始まっており、10月17日が最終日です。ニュージーランドにお住まいの方も、これからニュージーランドに住みたいと考えている方も、投票の行方に注目です!

ABOUT ME
はっしー
日本のIT企業で月100時間超えの残業を経験、過労死しかけた元社畜の34歳。理想のワークライフバランスを求めてニュージーランドの大学へ留学、プログラマとして現地就職。毎日定時帰宅の生活をエンジョイした後、永住権を取得。現在は無職です。